【校長室より】「変わる勇気」と「変わらない勇気」

 先月白山に登りました。これまで登山とは無縁の人生を送ってきた僕にとってその日は大変な1日になりました。前日の夜、子供に「お父さん、山を舐めたらあかんよ」と忠告されたにも関わらず、日頃ジョギングをしているので「白山ごとき大した事はない」と思い、ポロシャツとジーパンに2,480円のズックを履いて登ったのが大きな間違いでした。途中「甚之助避難小屋」という休憩所で、水を飲みながらふと周りを見ると、みんなトレッキングパンツに登山靴を履き、手にはストックみたいなものを持っていることに初めて気づきました。「引き返そうか?」と心配されたが、当然「いや登る」といつもの意地を張る。そこからがまさしく地獄でした。

 苦行を続ける中(自ら招いたものだが)、やはり神様はいるのです。足や膝や息が限界に達した「エコーライン」という所で、下りてくるある男性に「先生?」とふと声をかけられました。昔の部活動の教え子のT君でした。確か大学で鳥人間コンテストに出ていた事までは覚えているが、その後何十年も会っていない。まさかこんな所で再会するとは。しかも自分の事を覚えていてくれて感激。その場で会話したのは5分程でしたが、終始昔と変わらない穏やかな笑顔で近況を語ってくれました。高校時代のT君は優しさに溢れた人間で、自分の試合よりも友達が頑張っている試合を誰よりも大声で応援していた姿が印象に残っています。隣にいた女性とは職場で知り合い結婚したそうで、「彼、優しいでしょう」と訪ねたら、「自分の事は後回しにする人なんです」と答えてくれました。白山の大自然はもちろん雄大でしたが、T君の「あの頃と変わらない存在」は僕にとってはもっと雄大なものに思えたのです。

 下山しながらずっと考えていた事があります。そう言えば、本校の生徒達は、部活動の試合や学校行事になると本当に一生懸命応援して仲間を励ましているなと。また日常の何気ない会話から、よく「あいつすごいよ」とか「あの人頑張ってるなあ」とか「私も見習わないとあかん」という声が聞こえてくるなと。他人の努力する姿を心から讃えてリスペクトするという、人間関係において最も大切な姿勢を砺波高校の生徒達は持っているなと。これが本当の意味の“素直さ”であり、大人になっても絶対に変わって欲しくないものなのです。

 世間の荒波に揉まれると様々な障害が襲いかかってきます。余計な見栄や偏見に振り回されると自分を見失うこともあります。往々にして良いものほど変えないようにしていると、自分にとって都合が悪い状況になったりもします。そんな時にはちょっとした知恵と勇気が必要です。人間にとって「変わる勇気」はもちろん必要ですが、「変わらない勇気」もまた必要なのです。

 ちなみに、2,480円のズックですから底はツルツルです。山から下る時何回も転倒し、膝は壊れそうでした。意地っ張りなこの性格は変える勇気?決心?が必要です^▽^

              学校長 中村謙作